停電や通信の障害が起きると、お店のレジでカードが使えなくなることがあります。これに対して、ヨーロッパでは「停電や通信障害のときでも、カードで支払えるようにする」という取り組みが始まります。Mastercardが2026年10月に発表したもので、2027年からヨーロッパで新しく発行されるカードと、新しく入れる端末で、オフラインでの支払いに対応することになりました。
実はこの動き、日本のカード払いがこの20年ほどで進んできた方向とは、ちょうど逆向きです。日本では「すべての支払いを、その場でカード会社に確認する」という形に切り替えてきたからです。この記事では、欧州で決まったことと、日本のカード払いのこれまで、そして停電や障害のときに私たちができることをまとめました。
この記事の結論
- 欧州では、2027年2月から新しく発行されるMastercardのカード、2027年5月までに新しく入れる端末が、通信がつながらないときでも1回200ユーロまで支払えるようになります
- 日本のカード払いは、原則すべての取引をその場でカード会社に確認する「全件オンライン」に切り替えてきました。2021〜2022年には、最後まで残っていたオフラインの枠も0円になりました
- 欧州の動きは、オンラインをやめる話ではなく、いざというときの「補助席」としてオフラインを戻す流れです
- 日本でいま停電や障害に備えるなら、支払い方を2つ以上持っておくことと、ある程度の現金を手元に置いておくことが安心です
ヨーロッパで決まったこと
2026年10月26日に確認した内容です
Mastercardが発表した内容をもとにまとめました。今のところ発表しているのはMastercardだけで、Visaなどほかのブランドは発表していません。
Mastercardの発表を、かんたんにまとめると次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| カード | 2027年2月から、ヨーロッパで新しく発行されるMastercardのカードがオフラインでの支払いに対応 |
| お店の端末 | 2027年5月までに、新しく入れる端末・入れ替える端末はオフラインでの支払いへの対応が必須に |
| 使える金額 | 1回200ユーロまで(カードを発行した会社があらかじめ決めた範囲で) |
| 支払い方 | ICチップを差しこんで、暗証番号(PIN)を入力 |
| お金の動き | その場ではカードと端末だけで支払いをすませ、通信が戻ってから精算 |
| 想定しているお店 | スーパー・食料品店・ガソリンスタンド・薬局・駅の券売機など |
きっかけのひとつとして挙げられているのが、2025年4月にスペインとポルトガルで起きた大停電です。発表では、推定5,500万人がデジタルでの支払いをできなくなったとされています。デンマーク・スウェーデン・エストニア・ラトビアではすでにこの仕組みが使われていて、ラトビアでは発電機で電気をまかなったお店で、カード払いが続けられたそうです。
ただし、端末を動かす電気そのものは必要です。「電気も通信も止まっても、何もなくても支払える」という話ではなく、「電気はあるけれど通信がつながらない」ときに、カードと端末だけで支払いをすませられる、という仕組みです。
日本のカード払いは、逆の方向に進んできた
ここからが、日本の話です。日本のカード払いは、この20年ほどで「すべての支払いを、その場でカード会社に確認する」形に切り替えてきました。

むかしは「この金額までは、お店の判断でOK」だった
カードで支払うとき、お店の端末はカード会社に「このカードで、この金額を使っても大丈夫ですか?」と問い合わせます。これをオーソリ(オーソリゼーション)といいます。
むかしは通信に時間もお金もかかったため、一定の金額までは問い合わせをせずに、お店の判断で通してよいという決まりがありました。この「問い合わせなしで通してよい金額」を、フロアリミットといいます。
ICカード化と、全件オンラインへ
やがて、お店とカード会社をつなぐ仕組みが整い、カードの端末も広がると、少額でも問い合わせをするのがふつうになっていきました。そこに加わったのが、ICカードへの切り替えです。
- 2018年6月:割賦販売法の改正で、カードを扱うお店にICカードへの対応などのセキュリティ対策が求められるように。お店の端末のIC化は、2020年3月までの完了がめざされました
- 2021年10月:Visaのルール改定で、ICチップを差しこむ支払いのフロアリミットが一律0円に
- 2022年12月から順次:Visaのタッチ決済のフロアリミットも、1万円から0円に
こうして、日本のカード払いは原則として、すべての取引をその場でカード会社に確認する「全件オンライン」になりました。一部の業種では、条件つきでオフラインの取引が認められていて、オフラインで取引できる仕組みもあるにはあります。ただ、ふだんのお店でのカード払いは、通信がつながっていることが前提です。
なぜ全件オンラインにしてきたの?
大きな理由は、不正に使われるのを防ぐためです。
- 盗まれたカード・止められたカード:その場で確認すれば、利用を止めたカードはすぐに断れます
- 偽造されたカード:ICチップとオンラインでの確認を組み合わせることで、見破りやすくなります
- 使いすぎ:利用できる枠(限度額)を超えていないかも、その場で分かります
問い合わせなしで通した支払いは、あとから「実は使えないカードだった」と分かることがあります。通信が速く、安くなった今では、全件を確認したほうが安全で、お店にとってもカード会社にとっても安心、という考え方です。
それでも欧州が「補助席」としてオフラインを戻す理由
欧州の動きは、オンラインでの確認をやめる話ではありません。ふだんはこれまでどおり全件オンラインで、通信がつながらないときだけ、オフラインに切り替えて支払いを止めないという、いわば補助席のような仕組みです。
背景にあるのは、次のような心配です。
- 大きな停電:スペイン・ポルトガルの大停電のように、広い地域で通信が止まることがある
- 通信や決済のシステムの障害:設備の故障や設定のミスで、カード払いが止まることがある
- インフラへの攻撃:サイバー攻撃などで、通信やシステムが止められるおそれがある
北欧やバルト三国のように、現金を使う人が少なくなった国では、カードが止まると買い物そのものができなくなります。そのため、「止まらないこと」を、安全と同じくらい大事にする考え方が出てきた、と言えそうです。そのぶん、オフラインのときは1回200ユーロまで、ICチップと暗証番号で、と条件を決めて、不正のリスクをおさえています。

日本の備えはどうなっている?
停電や障害で、カード払いが止まったことも
日本でも、停電や障害でキャッシュレスの支払いが止まったことがあります。
- 2018年9月 北海道のブラックアウト:北海道のほぼ全域が停電し、レジや端末が動かないお店が多く出ました。非常用の電源を用意していたお店では、営業を続けられたところもありました
- 2022年7月 KDDIの通信障害:2日以上にわたって通信がつながりにくくなり、通信回線を使う端末に影響が出ました
- 2023年11月 カード決済のネットワークの障害:コンビニやJRの券売機などで、カード払いが数時間にわたって使えなくなりました
全件オンラインということは、電気と通信、そしてカード会社につながる仕組みのどれかが止まると、カード払いも止まるということでもあります。
オフラインに備えた支払い方もある
日本にも、通信がつながりにくいときに備えた支払い方はあります。
- PayPayの「オフライン支払いモード」:スマホが通信できないときでも、スマホに出したバーコードをお店の端末で読み取ってもらう形なら、1回5万円まで支払えます(過去24時間で5回・過去30日で10回まで)。2024年1月の能登半島地震のときには、石川県でこのモードがほかの地域よりずっと多く使われたそうです
- 交通系IC(Suica・ICOCAなど):カードの中に残高を持つ仕組みで、もともと改札で一瞬で処理できるように作られています
ただ、どちらもお店の端末やレジに電気が来ていることが前提です。停電そのものには、カードもスマホ決済も弱い、というのは日本でも欧州でも同じです。
反対に、お店の端末を置かずに、お客さんのスマホの上で支払いを済ませる新しいしくみも広がっています。こちらはNFCタグ決済とは?でご紹介しています。
コード決済についてはコード決済の記事、交通系ICについては交通系ICの記事でもまとめています。
私たちができること
欧州のような仕組みが日本に入るかどうかは、まだ分かりません。日本のカード払いは全件オンラインが前提なので、もし取り入れるとしても、ルールや端末の見直しに時間がかかりそうです。
それまでのあいだ、私たちにできる備えは、むずかしいことではありません。
- 支払い方を2つ以上持っておく:クレジットカードとコード決済、交通系ICなど、仕組みのちがう支払い方を組み合わせておくと、どれかが止まってもほかで支払えることがあります
- よく行くお店の支払い方を知っておく:ふだん使うお店で、どの支払い方が使えるかを知っておくと、いざというときにあわてずにすみます
- ある程度の現金を手元に置いておく:電気も通信もいらない現金は、いちばん止まりにくい支払い方です。数日分の買い物ができるくらいの現金を、手元に置いておくと安心です
クレジットカードの選び方はクレジットカードの記事でもまとめています。
ほかのお店の支払い方法を探す
関西のスーパーもドラッグストアも、近くのお店をまとめて見られる、お店さがし →
まとめ:ふだんは全件オンライン、いざというときの備えも
オフライン決済・要点のまとめ
- 欧州では2027年から、Mastercardのカードと端末がオフラインでの支払い(1回200ユーロまで)に対応
- 日本のカード払いは、原則すべての取引をその場で確認する全件オンラインに切り替えてきた
- 全件オンラインにしてきたのは、不正を防ぐため
- 欧州の動きは、オンラインをやめるのではなく、止まらないための「補助席」
- 停電のときは、カードもスマホ決済も端末の電気が必要
- 備えは、支払い方を2つ以上と、ある程度の現金を手元に
キャッシュレスはとても便利ですが、電気と通信に支えられていることも忘れずにいたいところです。なにとくでは、日本でもオフラインでの支払いについて新しい動きがあれば、この記事でお知らせします。
参考にした公式ページ
- Mastercard to keep payments moving during power and network outages across Europe(Mastercard・2026年10月。対応の時期・200ユーロ・ICチップと暗証番号・スペインとポルトガルの大停電)
- Visaブランドルール改定に伴う端末設定変更のお知らせ(三井住友カード・加盟店向け。接触ICのフロアリミットを2021年10月16日に一律0円)
- ブランドルール改定に伴う端末機設定変更のお知らせ(三井住友カード・加盟店向け。Visaのタッチ決済のフロアリミットを2022年12月から順次0円に)
- 割賦販売法について(経済産業省・2017年12月。改正法の施行とお店のIC化の目標)
- オフライン支払いモードについて(PayPay・加盟店向け。対象の支払い方・上限)


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